エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「あのお店に、わざと連れて行ったって本当?」

 大哉さんの目が、悲しそうに細められる。伊東先生のことよりも、私たち自身で話さなければいけないことがありそうだった。

「……ごめん」

 それでも、大哉さんのことを信じようと思えるのは、この腕の中からもう私自身が抜け出せる気がしないからだ。

「傷つけた分、絶対幸せにする」

 だから逃げないでくれ、と耳元に唇を摺り寄せられる。
 まだなにひとつ彼の言い分を聞いていないけれど、逃がす気のない腕の強さに今は安堵する。

 彼の腕の中で深呼吸をすると、次第に気持ちが落ち着いてくる。私が身体の力を抜くと、逃げないとわかったのか彼の腕も緩んだ。

 そして、ずっと立ち尽くしていた伊東先生の方を見た。

「伊東先生、彼女が疑ってますよ。他に女がいるんじゃないかってこそこそ嗅ぎまわってます。二兎追う者はって諺知らないわけないと思いますが」

 ぎくりと伊東先生の顔が強張る。すでにスマホを盗み見られて、私のところに電話がありましたよ、ということは今は黙っておいた。

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