エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「俺は、別に、そんなつもりじゃ」
「じゃあいったいどんなつもりなんです。未練残してる場合じゃないと思いますが。ごまかすのか弁解するのか知りませんが、失いたくなきゃ、よそ見してないで新しい彼女に向き合ったらどうです」

 伊東先生が、ズボンの後ろポケットからスマホを取りだし、画面を見るとふっとため息を吐く。彼女からの連絡を確認しようとしたのだろうか。
 それからもう一度大哉さんを睨んだが、もう言葉はないようだった。

「ご存知とは思いますが、俺たちはもう結婚しました。伊東先生が何を言おうと、あなたは無関係で俺たちふたりで解決する問題だ。部外者なんです。だからそっちはそっちで解決してくれ」

 最後は吐き捨てるようにいいながら、再び私を抱く腕を強くする。伊東先生は黙ったまま俯き、しばらく地面を睨んでいた。

 なんとなく、今度こそこれが最後になるだろうなと思った私は、小さく頭を下げる。それからすぐに、伊東先生に背を向けて大哉さんの方を見た。雨の中、走ってきてくれたらしい彼はよく見るとかなり濡れている。

「びしょ濡れじゃないですか……」
「……雅」

 大哉さんの目尻が弱弱しく下がっている。私は小さく笑ってハンカチで彼の頭の水滴を拭った。
 背後で、ぱしゃりと水の上を走る足音が遠ざかっていった。

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