エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
大哉さんが急に私の腰を抱き上げて、自分の膝の上に乗せた。向かい合わせにされると、否が応でも目が合う。
「傷つくのはわかってるのに、俺の知らないところでそうなるのが嫌だった」
真っすぐ私を射止める彼の目を見て、少しも後悔はしていないのだとはっきりとわかった。
「どうせいつか傷つくなら、俺の前で傷ついてほしかった」
思い出すのは、この黒い瞳を優しい色だと思ったことだ。私がひとりにならないように、ずっとそばにいてくれた。
泣きたいように泣かせてくれて、心に寄り添ってくれたから、あの夜私は彼に慰められたのだ。
伊東先生が言ったような、卑劣な夜ではなかった。それだけは確かなことで、一番意味のある大切なことだ。
私から彼に顔を寄せ、こつんと額を合わせる。
「慰めてくれたのがあなたでよかった」
そう言うと、目の前で彼の目が大きく見開かれ、それからくしゃりと顔を歪めた。まさかそんな泣きそうな顔をされるとは思わなくて、私の方が驚いた。
彼の両腕が私を強く抱きしめ、首筋に顔を摺り寄せる。
「後悔はしてない。けど、嫌われたくはない」
どうやら彼なりに、恐れていたものがあったらしい。
「本当に、よかったと思ってます」
とてもじゃないけれど、嫌いになれそうにない。それほど私は彼からの愛情にどっぷりと浸かってしまっている。
「でも、やっぱりショックはあったので、たくさん慰めて。でないと拗ねますよ」
彼の頭を抱きながらそういうと、首筋でふっと笑ったような息遣いが聞こえた。
「ギュッとして頭撫でて」
「ギュッと……、はさっきからずっとしてるけどな」
「文句を言わない」
わざと唇を尖らせてそう言うと、彼は心の底から安心したような顔で言った。
「仰せのままに、奥さん」
抱きしめながら、片手がゆっくりと私の後頭部を撫でる。
「それから? どうしたらいい?」
「キスしてほしい」
即座に頭頂部にキスをされた。両頬を手で包んで固定しながら、額、目元にも次々に降ってきて、最後は唇だ。
「許してほしい。もう二度と傷つけさせない」
そう言ってから、優しく触れる唇は、まるで誓いのキスのようだった。