エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
ハイネックの真っ白いウェディングドレスは、腕の部分はノースリーブになっている。白い生地の上に白の総レースを重ね、シンプルだけど華やかさもある。
大胆にVの字に開いた背中の腰の部分から、レースのトレーンがたっぷりと長く私の歩いた後を飾っていた。手には、白と薄紫のバラを合わせたティアドロップのブーケがある。
私は、今日も泣きそうな父の腕に手を添え、観音開きの重厚な扉の前で待っていた。
「お父さん、もう泣いちゃダメだよ」
結婚はもう一年前にしてしまっているのだが。やっぱり結婚式はひとつの儀式であり、親としても意味のあるものなのだろう。
「無理だよ、そんなの」
仕方ないなあ、と苦笑しながら一度腕を離し、父の背中を撫でる。もうすぐ式が始まる。なにか言うべきか、と父の顔を見上げながら考えていたら、悟った父がぶんぶんと顔を横に振った。
「あれは言わなくていいぞ。言ったら立ち直れない。泣くからな」
あれとは、言わずもがな『お父さん、育ててくれてありがとう』というやつだろう。泣くからな、と脅されてしまった。
言わなくちゃ、と思うと照れくさいけれど、言うなと言われるとそれはそれで、素っ気ない気もしてくる。
どうしようかなあ、としばらく考えて、別れの言葉にならないようにすればいいと思い付いた。
「お父さん」
ギュッと父の手を掴む。
「お母さんと、これからも仲よくね」
「泣かすなって言っただろうっ」
別段、感動するようなことも寂しくなるようなことも言ってないのに、結局父の両目からぼろぼろと涙をこぼさせてしまった。