エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
ほどなくして、パイプオルガンの音が扉の向こうから聞こえてくる。父はハンカチで目元を拭って、ぐっと表情を引きしめるとどうにか涙を止めた。
微笑みあって頷き、正面を向くとゆっくりと扉が左右に開く。
私と彼と、ふたりで選んだチャペルだ。縦長にいくつも並んだ曇りガラスの窓から、白い日差しがたくさん式場に入り込み、光があふれていた。
両側に両親や従兄弟など親類が並び、真っすぐ進む先に、背の高いグレーの礼服を着た彼が立っている。
その光景を見た時、なぜだか急に胸に込み上げてくるものがあった。
父とふたりで、彼のもとまでゆっくりと進む。一歩一歩、近付くほどに心臓の鼓動が早くなっていく。
半ばまで来た頃、ベール越しでも彼の表情が見えた。背筋を伸ばし私を待つ彼は、目を細めてまるで眩しいものを見ているみたいだった。
私も彼を見つめたまま、残りを歩く。ようやく彼のそばまで来た時、父が私の手を一度強く握り、それから彼の方へ委ねる。
「娘をよろしくお願いします」
さっきまで泣いていたとは思えない、とても静かな声だった。
大哉さんが、父から私の手を、まるで壊れ物を扱うみたいに優しく受け取る。両手で包み込み、父に答えた。
「大切に、守ります」
この瞬間、心が震えた。
自分が、とても大切に育てられて来たのだと知る。そうして、委ねられた彼が私を大切に慈しもうとしていることも。