エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
悲しいわけでもないのに、かといって泣くほどの激しい感情に打ち震えているわけでもないのに、自然と涙が浮かんでくる。
感動と、感謝と、神聖で厳かな気持ちだった。
身体が、小刻みに震える。彼を見上げると、優しい目で私を見下ろし、片手が頬に近付く。しかし、触れることなくベールに阻まれ、そっとレースだけを撫でていた。
ふたりで正面を向き、祭壇の前に立つ。
神父様の声で、聖書の朗読が響く。緊張なのか感動なのか、水の中で聞いているように誓いの言葉も自分の声さえどこか遠い。
向き合って指輪の交換をする時、私の手が小刻みに震えているのが彼に伝わったのだろう。大丈夫だ、とそっと腕を撫でてくれた。
「それでは、誓いのキスを」
その言葉に従い、私は少し膝を折って屈み彼がベールの端を摘まんで上げる。ベール越しでなくやっと彼の顔が見えて急に、私は一生彼のそばにいるのだと意識した。
彼が、不意に私の手を取り恭しく持ち上げて腰を折ると、手の甲に口づける。そして、私だけに聞こえる小さな声で言った。
「愛してる。一生かけて幸せにする」
それは、神様ではなく私に誓ってくれたのだとすぐにわかった。そして、愛と同時に強く感じる執着。
きっと、あの夜私が彼の腕に囚われた時から、こうなると決まっていた。「私も」と答えて瞬きをすると、涙が一筋頬を伝う。
彼がそっと私の手を引き寄せ唇にキスをして、誓った愛の言葉を互いの身体に封じ込めた。