エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
私も彼も、酔っているのは確かだった。ただ、それがお酒になのかキスになのか、わからない。
舌を絡ませ、零れた唾液を舐められまた唇に戻り、それを繰り返すうちに気が付けば覆い被さる彼の身体を支えきれなくなっていた。
優しい手つきで、乱されていく。
目を閉じていれば、キスと彼の手の温もりが心の中までしみ込んで、とろりと甘い蜜の気配が漂う空気に溺れる。
「は、ぁ……」
ソファがぎしりと軋んだ。顔を横に向ければ、革張りのひやりとした感触が頬に触れる。首筋から開けた服の中へ、丁寧にキスが施される。
吸いつき、愛しむように唇を擦り寄せ、熱い吐息が零れる。肌から体の中へ愛情を吹き込まれているような錯覚に陥った。
目を閉じてその錯覚に、溺れたままでいたかった。
頭の片隅に過る小さな葛藤も、無理やり理性を繋ぎ止め手繰り寄せればできないこともなかったのに。
下着の中に入り込む指先の、優しい愛撫を甘受する。自分の唇から漏れる甘やかな声が、どこか遠くの出来事のようだった。
それを呼び覚まさせたのは、他でもない、彼だった。
「後藤さん」
じっとりと汗ばんだ身体が密着している。熱の籠った声に耳元で囁かれたのは名字で、こんな睦言をしている時に聞く人の声でもない。そのことに、はっと現実に引き戻された。
目を見開くと、私を組み敷く人の切なげな顔が目の前にある。
見つめ合って、息が止まった。
どうして、こんなことになったのだろう。この人は、直樹さんの後輩で、今まではほとんど話したこともなかったのに。
この部屋に連れて来られたときに、少しの予想はしていた。こういうことになるかもしれないって。だけど、ひとりになるのが怖かった。彼のやさしさに甘えたかったのだ。
「ふっ……うっ……」
涙腺が壊れてしまったようにぶわりと涙があふれ出た。唇からは嗚咽が漏れる。彼はそんな私を咎めることなく、優しい手で私の額にかかる髪をかきあげた。
「いくらでも、泣いていい」
目尻の涙は、唇で拭われる。瞼を再び閉じた私だったが、とんとんと指で軽く叩かれて開いてしまう。
「だけど、誰に抱かれているかは、間違えないでくれ」
違う。間違えたり、していない。
だけど“誰”なのかを認識しないようにしていた。
目を閉じさせてはもらえず、現実と向き合ったまま――私は深く、彼を受け入れた。