エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「もうやだ……なんで、泣けてくるの」
「別におかしいことじゃない。理屈で整理できることばかりじゃないだろう。素直に感情が顔に出て、かわいいと思ってた」

 泣いてる相手に対して、かわいいかわいいと連呼するのはどうなんだろう。だけど、かわいそうにと慰められるよりは、惨めにならずに済む。
 彼が目を細めて、それからまた近づき私は咄嗟に目を閉じた。今度は、その両方の瞼に順にキスされた。

「かわいいよ。俺にはずっと、そう見えてた」

 私を閉じ込めていた腕が解けて、両手で頬を包まれる。吐息が触れる距離で、まっすぐに私を見つめる目に囚われた。

 頭がぼうっとするのは、泣き過ぎたせいなのか酔いのせいなのか、それとも彼の目に射抜かれているせいなのか。

 どうして、さっきから彼は私にキスをするんだろう。
 毅然として拒否するのが正解のはずなのに、私はそれができなかった。今も、キスの予感を感じているのに。

 親指が、ゆっくりと私の下唇を撫でる。内側を撫でる感触がくすぐったくて、思わず唇を開いてしまうと、その隙を彼は見逃さなかった。

「んっ……」

 深く塞がれたかと思ったら、濡れた舌が歯の間をくぐって口内まで入り込む。きゅっと肩を竦めて、身体が固くなる。後ろに下がろうにも、顔を両手でしっかり掴まれたままで動けなかった。
 久しぶりのキスの感触は、息苦しさを感じるほどに情熱的だった。このキスの相手が高野先生だということに、感情は戸惑う。

 今の私に、温もりという毒は素早く全身に回ってしまう。上顎を撫でられて、固くなっていた体の力は抜けた。絡みあう舌に翻弄されて、じんと頭の芯が溶けてくる。

 じゅる、と啜るような音と共に、舌を吸われ彼の口の中に迎え入れられると、先を歯で甘噛みされる。

 背筋がぞくぞくとして、私はついに彼のシャツを握りしめてキスに応えた。

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