エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

 このマンションに着いてからは、更に飲んで確か「ヤケ酒をしろ」という流れになって、飲みながらたくさん話を聞いてもらった気がする。
 本当に、迷惑しかかけていない。どうかせめて、記憶にない部分で私が泣いて迫ったりしていなければいいなと願うほかない。

 ただ、昨夜はあれほど苦しくて仕方なかった心が、今は少し楽になっている。申し訳ないけれど、一晩中慰めてくれた彼のおかげだと思った。

 せめてこれ以上、煩わせないようにしなければ。

「……よし。起きて帰ろう」

 今度こそ、痛みを堪えて起き上がった。
 部屋を見渡せば、私が昨日着ていた服と下着がベッドの足元に畳んでおいてある。もちろん、やってくれたのは高野先生だろう。
 昨夜から今朝の出来事だけでもう、恥ずかしくて死にたい。

 身体は少しベタベタするけれど、迷った末にそのまま着た。いくら好きに使っていいと言われても、シャワーを借りるのは気が引けたからだ。
 バッグもいつのまに持ってきてくれたのか、ローボードの上に置いてあった。中を覗くとスマホもちゃんと入っている。

 昨夜から見ていないから、誰かから連絡が来ていないか、確認しなくてはならない。もしかしたら、直樹さんから来ている可能性もあると思った。

 あったとしても、決して良い内容ではないだろうけど。

 若干緊張しながらスマホを手に取り、一度深呼吸をして画面をタップする。メッセージアプリの通知を開くと、クーポンの通知がいくつか入っていただけだった。
 直樹さんから、何もない。あの時未読だった私のメッセージに既読は付いていたけれど、それだけだ。

 ほっと気が抜けた半面、ひどく虚しい気持ちにも襲われる。メッセージアプリを閉じて、無理やり思考回路をシャットアウトした。もうこれ以上考えると、心が疲弊する。考えたって現実は変わらないのだから。

 画面左上の時計表示を見ると朝の八時になろうとしているところだった。高野先生はさっき出て行ったところだけれど、仕事の時間には間に合ったのだろうか。


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