エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
『どういうことよ!?』
通話に切り替えた途端、大きな声で問われて思わずスマホを遠ざけた。声からも、彼女の怒りが伝わってくる。
「うん、金曜の夜に、別れた」
『だから! なんでって! 聞いてるの!』
凄い剣幕に気圧された。私のことでこんなにも怒ってくれる人なのだ。言えば間違いなく直樹さんに悪感情を抱くだろう。言うべきか迷ったが、直樹さんが私と別れたことで安心して彼女との仲を人に話せば、サチの耳にも自然と届く。
だとしたら、病院で知って混乱するよりは早めに説明した方がいい。
「なんか、付き合うことになった女性がいるみたいで」
二股だとかその辺のことは敢えて説明しなかった。しかし、電話の向こうでサチが数秒黙り込んだあと『もしかして』と小さな声で呟く。
「サチ?」
『いや。それ、付き合う女が誰か聞いた?』
「えっと、春に就職した看護師さん?」
直樹さんから聞いた情報ではないものを、うっかり話してしまった。高野先生とのことまではサチに話すつもりはなく、慎重に話をしなければいけないのに。