エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける


 金曜の夜……思えば、ちょうどあれから一週間が経つのだ。

 更衣室で事務服から私服に着替え、ロッカーを背中にその場にしゃがみ込んで私はスマホとにらめっこしていた。
 サチから送られてきた連絡先をとりあえず登録して、それからどうするかで悩んでいる。私の人差し指はぷるぷる震えていた。

「……電話すればいいの? いや、でも高野先生の勤務時間なんてわからないし……」

 もしもまだ仕事中だったら迷惑だ。まずはやっぱり、メッセージから送るべきだろう。だけど内容は? なんて送ればいい?

 入力しては消し、を何度も何度も繰り返しているうちに、十分以上の時間が経った。そしてできた文章が、たったこれだけ。

《後藤雅です。サチから連絡先を受け取りました》

 ……素っ気なさ過ぎる。

 それはわかっているのだけれど、あれこれと聞きたいことを文章にすると、なんだかやたらと長くなっていったのだ。

 会いたいとは……どういう意味で? 話があるとは、どういう?

 あの夜のことに、変に責任を感じてしまっているのなら、会うべきではないと思う。だけど、本当はそんな意味などないのに“会うべきではない”という内容の文章を入れれば、余計に気にさせてしまう。
 誤解のないようにと文章を打てば、段々と長くなり出来上がると変に言い訳ばかりのグダグダの内容になっていて、結局無駄を省くとたった一行に収まってしまったというわけだ。


< 53 / 185 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop