エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
「えっ」
ダメなことはない。寧ろ、メッセージよりも電話の方が、用件を済ませる場合には手っ取り早くて好きな方だ。そもそも、彼も話したいことがあるからサチに仲介してもらった様子だった。
……でも、緊張する。
迷っているうちに、待ちきれなくなったのか彼の方から通話着信があった。
「わっ、ど、どう、どうしよ」
もちろん出る、そのつもりだけれど、ちょっと心の準備をする時間くらい欲しかった!
止まない振動と着信メロディに、焦ってスマホを取り落としそうになる。気持ちを落ち着けてからと深呼吸としつつも、次には着信が止まってしまったらと結局焦り、指が急いで画面を操作した。
「……は、はい。後藤です」
耳にスマホをあて、出た第一声は擦れた上に震えている。
『ごめん、夜に』
一週間ぶりに聞く、高野先生の声だった。
「いえ、あの、大丈夫……起きてました」
緊張しすぎていっぱいいっぱいで、馬鹿なことを言った。まだ二十時になったところだ、大抵の大人は起きている。案の定、スマホの向こうで高野先生が返答に困ったのか、微妙な間が空いた。
『……そうだな。寝てたらちょっと驚く……あ、元々早く寝る方?』
「いえ、全然です。まだ二十時でしたね、先にお風呂入ったりしたから時間の感覚が」
慌てて、嘘でもないが本当でもない言い訳をすると、高野先生のふっと笑ったような息遣いが聞こえた。
『よかった、起こしたわけじゃないなら』
耳に心地よい声だ。優しく気遣う言葉に、なんだかどうしようもなく、胸の奥がくすぐったくて、少し苦しい。この感情は、何なのだろう。