エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「あ……そうですね、食事には、少し遅いかも」

 そう答えながらも、心臓がまたトクトクと早鐘を打ち始める。
 食事に誘いたいと思ってくれるらしい。いや、でも、話とやらのついで? というか……。

『その営業に内視鏡部長と一緒に捕まりそうになって、逃げてきた。飲みの誘いがしつこくて』
「あ、接待?」

『そんなようなもん。昔はもっと、医療機器メーカーの接待ってあからさまだったらしいけど』
「そうなんですか」
『今は時代も変わって来てるしな』

 さっきから、ずっと緊張したまま待っているのだが、肝心の話が始まる様子がない。普通の雑談が続くばかりだ。

『どうせ飲むなら、接待より美味しく飲める相手と飲みたい』
「わかります。仕事相手より、やっぱり友達とかと飲む方が楽しいし美味しいですよね」

『後藤さんは酒好きだからいつでも美味しいだろ』
「そっ、そのとおりですけどやっぱり飲むときは楽しい相手がいいですよ!」

 先週ですっかり酒好きがバレたのを思い出し、恥ずかしくなって早口で反論する。

『俺は、後藤さんが相手だと一番美味しく飲めるけど』

 ――本当に、ただの雑談がしたかっただけ?

「からかわないでください」

 私が言うと電話の向こうで彼が笑う。
 高野先生のイメージが、先週からどんどん変わっていく。そもそも、こんな冗談を交えた雑談をする人だと思っていなかった。

< 57 / 185 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop