エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
「あ……そうですね、食事には、少し遅いかも」
そう答えながらも、心臓がまたトクトクと早鐘を打ち始める。
食事に誘いたいと思ってくれるらしい。いや、でも、話とやらのついで? というか……。
『その営業に内視鏡部長と一緒に捕まりそうになって、逃げてきた。飲みの誘いがしつこくて』
「あ、接待?」
『そんなようなもん。昔はもっと、医療機器メーカーの接待ってあからさまだったらしいけど』
「そうなんですか」
『今は時代も変わって来てるしな』
さっきから、ずっと緊張したまま待っているのだが、肝心の話が始まる様子がない。普通の雑談が続くばかりだ。
『どうせ飲むなら、接待より美味しく飲める相手と飲みたい』
「わかります。仕事相手より、やっぱり友達とかと飲む方が楽しいし美味しいですよね」
『後藤さんは酒好きだからいつでも美味しいだろ』
「そっ、そのとおりですけどやっぱり飲むときは楽しい相手がいいですよ!」
先週ですっかり酒好きがバレたのを思い出し、恥ずかしくなって早口で反論する。
『俺は、後藤さんが相手だと一番美味しく飲めるけど』
――本当に、ただの雑談がしたかっただけ?
「からかわないでください」
私が言うと電話の向こうで彼が笑う。
高野先生のイメージが、先週からどんどん変わっていく。そもそも、こんな冗談を交えた雑談をする人だと思っていなかった。