エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
『からかってるわけじゃないんだけどな。……ところで、後藤さん』
「は、はい!」
やっと雑談から話が変わるのかと、無意識に背筋が伸びる。
『こないだ送ったときに、後藤さんが降りた駅まで来てるんだけど……』
まったく予想外だった高野先生の言葉に、一瞬頭がフリーズする。それから、ぱっと窓の方へ目を向けた。
このマンションは駅が近くて一本道だから、窓から目を凝らせば見えるのだ。
『ごめん、迷惑だろうけど出来れば今日中に一度会いたくて』
「ど、どこですか! 駅の改札出たとこ?」
『タクシー乗り場。そこから右? 左? 外でいいから、顔だけでも見せてくれないか』
スマホを耳に当てたまま、慌てて窓に近寄る。カーテンを開け、ガラス越しでは見えづらく窓も開けた。
駅の方角へ目を凝らしてみても、さすがに夜は暗くてわからない。
「あの、駅前の道を左です。でも、ちょっと待ってて」
『ここで?』
「すぐ行きますから! 五分、いえ十分ください!」
窓を閉め、高野先生にそれだけ言うと通話を切った。風呂上りのルームウェアで外に出るわけにはいかず、慌ててキャミソールにカーディガンを羽織り、下は緩めのワイドパンツに着替えた。
洗面所の鏡の前に行くと、前髪をピンで留めて額全開の私が映っている。お風呂上りに、肌の手入れをした時のままだった。