エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
慌てて俯き、視線から逃げる。とてもじゃないが、目を合わせては平常心で話せそうになかった。
ぎゅっと目を閉じ、余計な感情や記憶を遠ざけて気持ちを落ち着かせる。それからもう一度顔を上げた。
「あ、あの。こんなとこまで来てもらって、ごめんなさい。その……ありがとう」
「いや、俺が会いたくて来ただけだし。寧ろ、出てきてくれてありがとう?」
疑問形のお礼で返されて、思わず笑う。
「もうちょっと早く来たかったんだけどな、こっちから話がしたいとか言っておきながら、申し訳ない」
「私は待ってただけだし……あ、もしかして、お夕食もまだですか?」
彼の話の様子からして、勉強会が終わってすぐに来てくれたのではないかと感じた。尋ねると、案の定だ。
「ああ、後で弁当でも買って帰ろうかと思って……それか、もしこの辺りに店でもあったら付き合ってくれる?」
「はい、それはもちろん……」
普通なら夕食なんてとっくに過ぎている時間だ。空腹よりも、私のところへ来ることを優先したのだろうと思うと、申し訳ない。
「えっと、でもこっち方面にはちょっと飲食店が無くて。駅の方に戻るか、それか……」
もしも、彼の話が先週のことなら、あまり人に聞かれたくない。店だと話づらくなるならと、思いつきを口にする。
「もしよかったらそこのコンビニでお弁当を買って、うちで食べるというのも……その方が、その、話がしやすいと」
言いながら、容易く男の人を家に入れるのかという葛藤とそんな風に先生に思われたくないという気持ちが浮かんでくる。しかし、彼の家には先週お世話になっているのだ、ここで私の家に入れるのは嫌だとも言えない。
迷いが出たせいで最後は語尾が弱弱しくなる。
高野先生は、私の表情をじっと見た後、なぜか少しはにかむように笑った。
「いいのか?」
「えっ?」
「また、襲うかもしれないけど」
一瞬、息を呑んで絶句する。
その言葉にもだけれど、あんまりにも嬉しそうに見えた彼の真意が、わからなくて。私がどう受け止めるべきかわからなくて。