エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
私には馴染みのコンビニにふたりで行き、彼は幕の内弁当とお茶とコーヒー、私は少し冷えてきたので、缶のコーンクリームスープを買った。いや、買ってもらった。
「何かデザートみたいなものは良かったのか?」
「はい、お腹は空いてなくて」
話をしながら少し歩いて、住宅街の真ん中にある小さな公園に辿り着く。滑り台や砂場、ブランコが並ぶどこにでもある公園だが、ここには遅咲きの桜の木がある。
開花宣言の基準になるソメイヨシノに比べて満開の時期がずっと遅いので、今ならまだ咲いているかと思ったのだが。
「残念。ちょっと、満開時期は過ぎてしまったみたいです」
「八重桜か?」
「はい。詳しい品種まではわからないんですけど……ちょっと葉っぱが出てきちゃってますね」
それでも、大振りの枝いっぱいにまだ花はたくさんついている。緩やかな風で枝が揺れるたび、ひらひらと薄桃色の花びらが散っていた。
「充分綺麗だ。花見ができるとは思わなかったな」
「私も、夜桜でこんなふうにゆっくり眺めるのは何年かぶりです」
一本だけの桜の木だが、街灯と月に照らされてとても美しい。木の真下ではなく、少し離れた場所にあるベンチにふたりで腰かけると、彼は膝の上で弁当を広げた。
それと同時に、ぐうぅと大きなお腹の音が鳴った。音の源は、私ではなく彼のお腹の方だ。私はくすくす笑いながら彼に勧めた。
「どうぞ、私のことは気にしないで食べてください」