エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
「……悪い。カッコ付かないな、ほんとに」
「遅い時間までお仕事されてたんだから、お腹は空いてあたり前です」
もくもくと食べ始める彼の邪魔をしないよう、私は缶のスープで手を温めながら桜を見ていた。夜の空気はひんやりとして肌寒いし、どうせ温かいものを飲むならと少しでも栄養のありそうなものを選んだが、やっぱり口に入りそうにない。
そういえば、社会人になる年の花見を、直樹さんと一緒に見に行ったことを思い出した。あの頃は、優しかったのだが……何が、変わったんだろう。
人の気持ちが不変だなどと思ったことはないけれど、今となると人間性まで違って見える。
ぼんやりと散る花びらを目で追った。さすがにもう涙は出ないが、感傷的な気分になるのは否めない。
「少し痩せた?」
考え事をしていたせいか、突然話しかけられてはっとする。隣を見ると、いつの間にか彼は食べ終えてゴミをコンビニの袋にまとめていた。
ゴミの袋を自分の脇に置くと、再び私の方を見る。
「さっきから、気になってた」
「……ちょっとだけ。でも大丈夫です」
「本当に? ちゃんと食べてるか?」
言いながら彼の手が、きっと他意はないのだろうが延びてくる。私はついその手を見てしまって、視線に気づいた彼は困ったように笑って膝の上に置いた。
「……そんなに面変わりしましたか?」
稲盛さんに続いて、そんなに会うわけでもない高野先生にまで言われたらよっぽどなのかとさすがの私も心配になる。自分では気づいていないだけなのだろうか?