エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
頬に両手をあててふにふにと感触を確かめる。てのひらにあたる柔らかさは、減ったような気もするが、どうせすぐに戻るだろう。
しかし、彼の目は相変わらず心配の色を隠さない。
「少し痩せたようには見えたけど、それよりもわかってるつもりだから、心配になる」
「何をですか?」
聞き返すと、彼は一度逡巡していたが、ゆっくりと言葉を選んだ。
「すぐに割り切れるような気持ちじゃなかっただろう。そんな性格でもない。だから余計に心配になる」
まるで、私のことをよくわかっていると言いたげだ。いや、明らかにそういう意味だろう。
「……そんなことはないです」
軽く彼を睨んで言った。
「あんな扱われ方して、目の前でほかの女性を連れられて、それでも彼がまだ好きだなんて思いません」
それだけは、ない。ただ、なんとなしに悲しい気持ちが消えないだけだ。
諦めなければ、なんて思考回路が働いて、そのこと自体にも苦しくなる。諦めるなんて言えばまるで未練があるようだし、私が諦めるまでもなく、直樹さんは幼馴染の彼女を選んでいたのだから。
何をどう考えても苦しい。だから考えないようにしているのに、胸の奥で黒い火が燻っている。それがおそらく、食欲不振の原因だ。
「後藤さんが、今でも伊東先生に未練があると言いたいわけじゃない」
「当たり前です」
「でも、思い出は急に消えてはくれないだろう」
そんなことはない。綺麗に全部忘れる。すぐにそう答えられればよかった。けれど、口は開いたものの言葉が出ないまま、絶句する。
高野先生の言う通りだったから。