エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
今、たとえば直樹さんが“やっぱり別れたくない”と言いだしても、私は戻らない。戻りたいとも思えない。
だけど、過去は違った。
――あの頃は、まだ優しかった。
――あの頃は、楽しかった。
ずっと欠片も疑うことなく信じてきて、そんな自分が見てきた思い出はとても綺麗だった。今の直樹さんには繋がらない。
消えない思い出がわだかまって、心の中が重くて苦しい。どうして、そんな私に高野先生は気付くのだろう。
だけど、気付いてくれたのだということで、私は心の箍が外れた。
「……ごはんが、たべられないんです」
のろのろと弱音を吐いてしまう。
「まったく? ひとくちも?」
「コンビニのスープは食べられます。お野菜とかたくさん入ってるやつ。だから、そのうち元に戻るとは思うんですけど。ふらついたりもしないし、身体がしんどいわけでもないから」
「うん、焦らなくていい。精神的なものだろうし、無理して詰め込むよりはゆっくりいこう。体調を見てひどくなるようなら、点滴をした方がいいかもしれないが」
彼の手が、また私に近づこうとして途中で止まる。変な意味で触れようとしているのではないとそれはちゃんと伝わっているので、小さく頷くとほっとしたように彼は両手でがっつり触ってくる。その触り方には、違う意味で戸惑った。