エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

 ほとんど眠れなくとも、朝はやってくる。そして仕事にはいかねばならない。

 食欲は戻っているとはいえ、朝は元々それほど食べない。いつもはトーストにあればヨーグルトくらいだ。だけど、もしも自分が妊娠していたらと思うと、なんとなく家にあった野菜でサラダを作っていた。
 あと、牛乳とかも飲んだ方がいいような気がするけれど、あいにく買い置きがない。

「……私って、もしかしてうれしいのかな」

 不安はある。うれしい、と言う言葉もしっくりとはこない。はっきりとわかるのは、厭わしいという感情はまったくないということだ。

 いつもどおりに出勤して、ロッカールームで制服に着替えると始業までの時間で今日の仕事の下準備をする。

「おはよー、後藤さん」

 稲盛さんも少し早めの出勤をしてきた。

「おはようございます」
「後藤さん、ちょっといい?」

 隣のデスクに座った稲盛さんに手招きをされ、椅子ごとそちらに近づくと内緒話をするように彼女が顔を寄せてくる。

「なんですか?」
「実は……昨日、課長にも報告したし、そのうち皆も知ることになると思うけど」

 何やらごにょごにょと言いづらそうな彼女の話に耳を傾ける。

「……妊娠、しちゃって」

 数秒、彼女の言葉に反応が遅れた。何せ、それは昨日から私が悩んでいた現象と同じだ。

「えっ……ええっ⁉」

 ばっと顔を上げて彼女を見ると、照れくさそうに笑っている。


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