エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「全然違いますから!」

 私が強い口調でそう言うと、稲盛さんはほっとした顔になり「よかったー」と言った。

「いや、ほら。もしも妊娠なら時期が被るじゃない? 私が先に報告しちゃったから、もし後藤さんもだったら言いにくくなるだろうなって」
 その言葉で、はっとする。そうだ、仕事を引き続きさせてもらえるのかどうかが、不安になってきた。
 稲盛さんは正社員だから、産休育休もあるし授かり婚だとしても多少周囲にからかわれる程度で済む。

 だけど、私は? 派遣社員でも、妊娠出産を理由に解雇はされない。だけど、それは表向きだ。それに、同時期に重なると後から報告した方が疎まれる可能性は十分ある。

 妊娠だったら、登録してる会社の方にも連絡を入れないと……。
 評価は落とされるだろうか。どっちにしろ報告しなきゃいけないなら、早い方がいい。

「後藤さん? 大丈夫?」
「えっ、はい。大丈夫です。お仕事の準備しましょうか」

 稲盛さんの心配そうな声が聞こえて、慌てて意識を現実に戻す。椅子ごと自分のデスクに戻って資料整理をしようとしたら、朝礼の時間になった。

 急いでも結果はでないのに、考えないといけないことはいっぱいでどうしても気は逸る。ただただ、何より思うのは、お人好しのあの人のことだった。
 私を好きだと言ってくれたのに、さすがにこれは急展開過ぎて受け入れてもらうのは辛かった。
 できれば責任なんて言葉が必要ない状況で、彼と恋をしたかった。

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