エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

 だけどできれば、デートを愉しんでからにしたい。今日を本当に楽しみにしていたから、まだ水を差したくなかった。

「体調が悪いわけじゃない?」
「はい。楽しみにしてたから、昨日眠れなくて」
「じゃあ、少し寝たらいい。ついたら起こすから」

 大哉さんが微笑ましいものを見る目を私に向けてくるので、ちょっと照れ臭い。この人の中で、私はなんだかとても美化されているように思うのだが、気のせいだろうか。
 信号が青に変わり車が走り出すと、微かに伝わってくる振動が眠気を誘ってくれそうだった。

「ごめんなさい、ほんとにちょっと、寝ちゃうかも」
「いいよ。向こうで眠くなったらつまらないだろ」

 お言葉に甘えさせてもらい、シートに頭も凭れさせると目を閉じた。
 昨日眠れなかったのは嘘ではなかったけれど、本当でもない。妊娠かもしれないことに気が付いてから、ずっと眠りが浅かった。少し眠っても、すぐに目が覚めてしまうのだ。

 金曜の検査結果も、陰性だ。だけど、まだ生理の予兆もない。ネットで調べると、いろんなパターンがある。中々陽性反応が出なかったなんて人もいたから、気持ちはもう妊娠の覚悟をしていた。
 もうひとりで考え込んでも意味はない。大哉さんにもちゃんと話をして、彼の反応を見てそれから考えよう。

 ひとりで産むか、大哉さんがお父さんになってくれるのか。
 不思議と、産まないという選択肢は一度も出てこなかった。

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