エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「あっ! まさか怖がってるとこまで撮ってないですよね?」
「あのときは雅が怖がってまとわりつくから撮るどころじゃなかったよ」

 彼が前を向いたまま、楽しそうに破顔する。それを見て、私も嬉しくなった。

「楽しかったですね」

 純粋に、ただこの時間を楽しめた。私を好きだと言ってくれて、私が好きになりたいと思っている人。

 何度もデートを重ねれば、普通の恋人同士になって時を重ねて、いつか普通に結婚しようなんて流れになったかもしれないと思わされる。

「結構歩いたから腹が減ったな。夕食、早めにするか。ワインの美味い店があるから、そこに行こう」

 私に、現実を思い出させたのは、その言葉だった。

 ――ワインは、飲めない。

「あ、今日は、お酒はやめとく」

 明るい声で言ったのは、変に思われないためだったが、そう上手くはいかない。だって私が酒好きだということを彼は知っている。

「どうした? 体調悪い?」
「大丈夫です。でもたくさん歩いたから、ちょっと疲れたかなって。飲んだらすぐに酔っ払いそう」
「ちゃんと送るから心配しなくていいのに」

 彼の瞳が、ちらっと一瞬私を見る。そんなに、私がお酒を拒むのは意外だっただろうか。大層な嘘をついているわけでもないのに、なんだか悪いような気がしてしまい、私は観念した。

「酔わずに、ちゃんとしたい話があって」

 まだ肝心な話にもなっていないのに、緊張して声が震える。大哉さんから目を逸らし、俯いて膝の上においた手を握った。

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