エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
十七時を過ぎた頃、彼おすすめの蕎麦屋で少し早めの夕食を摂った。一般的な蕎麦屋を想像していたのに、日本料亭のような雰囲気のお店でお蕎麦はもちろん蕎麦粉を使った懐石料理をいただいた。
食べ終わった頃から、私は怖くなってきていた。
今日は、楽しかった。ちゃんとした気持ちを返せていないのに、こんなにも幸せな気持ちにしてもらっていいのかと思ってしまうくらいだった。
これを失ってしまうのが、怖い。
純粋な好意を向けてくれていたのに、責任という鎖が絡みつくのが怖い。
そして何より、本当に信じてくれるものなのかが、怖かった。自分でも思うのだ。第三者の目から見て、大哉さんの子なんですと決めつけるには不確定要素が強すぎると。
他にありえないというのは、私本人だからこそわかるにすぎない。
店を出てから、彼が車を走らせるのに任せて行先は聞かなかった。到着した場所は彼のマンションで、エントランスの横から地下駐車場へ入り車を止めた。
地下からエレベーターに乗って、彼の部屋のある階まで上がる。
「落ち着いて話せる場所ってことは、あまり他人に聞かれたくない話だってことだろ? それなら家がいいと思って」
嫌だった? と表情で私に尋ねてくる彼に、微笑んで頷く。
「大丈夫です。お邪魔します」
大哉さんの様子は、あまり喋らなくはなったけれど、表情もそれほど変わらなかったように思う。だから、私の態度で彼が何をどう思っていたか、気付けなかった。