エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

 彼の態度が変わったのは、玄関ドアを入ってすぐだ。先に入るように促され、玄関で靴を脱ぎながらドアの閉まる音を聞く。直後に背後から強い力で抱きしめられた。

「大哉さん?」
「……うん」

 落ち着いた声ともいえる。だけど、どことなく暗くも感じる声がしただけで、腕が緩む気配はない。
 かといって、それ以上動きがあるわけでもなく、私は彼の腕の中でどうにか顔を振り向かせた。すると彼の手が私の顔を支えて、そのまま動けなくなる。

「どうし……」

 様子がおかしい。どうしたのかと尋ねようとしたけれど、軽く唇を啄まれて邪魔された。

「あの」

 偶然タイミングが重なっただけかと思ったが、再びまた邪魔される。そのうち、唇が動くたびに声を出す前に塞がれた。

 ……からかってるの?

 声に出そうとすればまた邪魔するので、黙ったままで軽く睨む。彼は目を細めていつでもキスできる距離を保ったままだ。ふいに思い至って少し背伸びをして私から彼に口づけた。

 彼の目が、縋りついてくるように見えたから。

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