メガネをはずした、だけなのに
制服姿の賢斗くんが姿を現した。
「旅立つ直前で、空港にいるんじゃなかったの……」
私は思わず、驚きながら小声でつぶやいてしまう。
ステージに上がった賢斗くんは、生徒会長と校長先生の前を素通り。
脇目も振らず、ステージの右隣に置いてあるグランドピアノへ歩き進む。
ピアノに掛かってた布製のカバーを両手で掴むと、豪快に床へ投げ捨て素早く椅子に腰を下ろす。
「キミは今日、海外へ旅立つんじゃ……」
驚いた表情の校長先生が、マイクに向かって呟いた。
全校生徒も、何事かとザワザワし始める。
ステージ右隣は、整列する一年生の目前。
私が立つ最前列から凄く近い。
「賢斗くん、いったい何を始めるつもり……」
鍵盤蓋をゆっくり開いて、ピアノを見つめる賢斗くん。
背筋を正し、繊細な指先を白い鍵盤の上へ優しく乗せた……