メガネをはずした、だけなのに

 私は口を閉じたまま、無言で賢斗くんを見つめた。


 周りの話し声も気にせず、耳を傾ける。

 ステージ上の校長先生も、突然のことでオロオロするだけ。


 そんな喧騒の中で、賢斗くんがピアノを弾き始めた。

 騒がしくザワザワしていた全校生徒が、すぐに口を閉じて視線をステージへ向ける。

 教師、校長、生徒会役員、誰もステージ上の賢斗くんを引き止めようとしない。


 黙って視線をステージへ向けたまま、みんな賢斗くんに見入ってる。

 初めて耳にする美しい旋律に、だれもが心を奪われていく。


 深くゆったりとした響きで始まるメロディに、全校生徒は否応なく引き込まれてしまう。



 ショパン バラード 第1番 ト短調 作品23



 小学生の時に、私と賢斗くんが約束した思い出の曲……



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