メガネをはずした、だけなのに

 軽快なタッチで指先が鍵盤に触れ、音が色彩を帯びていく。


 最前列で賢斗くんを見つめる私の目から、頬を伝って涙が落ちていた。

 溢れ出る涙を、手で拭ってやるもんか!

 私は賢斗くんの演奏を、最後まで見届けるんだ!


 悲しくも嬉しくもない、私は感動してるだけ。

 全身で感じ取る美しい旋律に、心が震えてる。

 頬を伝って涙が床にポトポト落ちても、演奏を見続けるんだ。


 全校生徒を前に、ステージから愛の告白なんて賢斗くんズルいよ。

 いつもクールで冷たい表情のくせに、好きな気持ちをピアノで表現するなんて。

 付き合ってください、なんて口下手な賢斗くんは私に言ってこない。

 ショパンのバラードを耳にするだけで、気持ちは十分に伝わってくるから大丈夫。



 私も、賢斗くんのことが好きだよ……



 みんな、口を閉じて演奏に聞き入ってる。

 曲も終盤を迎え、賢斗くんは静かに立ち上がって全校生徒に頭を下げた。



 鳴り止まない盛大な拍手の中、ステージ上の賢斗くんが私を見つめてる……



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