メガネをはずした、だけなのに

 賢斗くんと私は、お互いに見つめ合ったまま。


 溢れ出る涙を無視して、ステージ上の賢斗くんと視線を合わせてる。

 ステージから見下ろす賢斗くんも、最前列に立っている私を見つめていた。


 ありがとう賢斗くん、ステキな演奏だったよ。

 小学生の時に交わした約束、時間がたっても忘れてなかったんだね。

 美しい旋律にのせた告白の答えを聞いて、溢れ出る涙が止まらないよ。


 本当の事を言うと、賢斗くんの口から直接聞きたかった。

 綿貫弓子のことが好きだ、付き合ってほしいって。


 全校生徒を目の前にして、威風堂々と愛を囁くなんて恥ずかしいね。

 ピアノが賢斗くんの代弁者になって、私に思いを伝えてくれた。

 演奏中は、胸のドキドキが止まらなかったよ。



 ……でも、キミは旅立ってしまうんだね。



 鳴りやまない拍手の中で、私たちだけ時間の流れがとまってるみたい。

 せっかく恋人同士になれたけど、遠く離れた場所へ旅立ってしまうんだ。

 賢斗くんは今、ステージの上で何を思い願ってるのだろう。

 顔の表情から、心の中を読み取ることはできない。


 私と視線を合わせたままの賢斗くんが、小さく頷いた。



 その直後、賢斗くんがステージから下り体育館を出て姿を消す……



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