メガネをはずした、だけなのに

 最前列から素早く抜け出ると、壁ぎわを小走りで移動する。


 途中、担任の先生と目があったけど、知らないふりをされた。

 体育館を出ると、私は廊下を疾走した。


 生徒や先生の姿がない静寂した校舎の廊下に、私の足音がパタパタと響き渡る。

 階段だって二段飛ばしで駆け下りて、職員玄関へ急いで向かう。

 一階の廊下を走ってる時、旧校舎が視界に入った。


「賢斗くん……」


 グランドピアノを演奏する後ろ姿が脳裏に浮かぶ。

 制服姿で背筋を正し、華麗な指裁きで軽快に曲を奏でていた。

 その旋律に耳を奪われ、廊下に座り込んでしまった事を思い出す。


「後悔するぐらいなら、行動しろ……」


 相葉くんの言葉をつぶやきながら、私は廊下を走り続ける。

 いつも、扉をノックしてから入る職員室は無人だったので飛び込んだ。

 先生たちは体育館に集合してるので、誰もいなくて助かるよ。


 小走りで机の間を通り抜け、上靴のまま職員玄関を飛び出した。



「いたっ!賢斗くん!」



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