罰恋リフレイン

「高校生の時にそう言えたらよかったね」

言い返せない俺が面白いのだろう。冬木はニコニコと見つめ返す。

「日野って告白されるのは戸惑うけど、俺が付き合おうって言ったらどんな反応すると思う?」

「やめろ……やめてください……」

もっと怒鳴ってやりたい。今すぐ殴りたい。だけどここは店で冬木は薫の先輩だ。薫の立場が悪くなることは避けたいし、冬木は簡単に薫を丸め込めそうで怖い。

「俺が日野の初めての彼氏になろうかな。キスも、それ以上の初めても俺がもらう」

怒りが頂点に達して勢いよく立ち上がった。その拍子にイスが大きな音を立てて倒れる。

「彼氏は俺だって!」

店員も周りの客も驚いて俺たちを見ているけれどそんなことは構っていられない。
こんなやつに薫を取られてたまるか。

「落ち着いてよ夏城くん。日野に強引なことはしないよ」

俺は財布から五千円札を取り出すと勢いよくテーブルに叩きつけた。

「帰ります」

「俺が奢るから金はいいよ」

「結構です!」

倒れたイスを戻すと「薫は渡さない!」と冬木を睨みつけながら吐き捨てて店を出た。

薫はあんな最低なやつのどこに惹かれたんだ。幸せにできるとは思えないのに。

しばらく歩いて冷静になるうちに薫の泣き顔を鮮明に思い出してくる。

俺よりは薫を傷つけることはしないんだろうな……。

薫から聞く冬木の話は誠実で優しい印象。

あいつのそばに居れば薫は幸せか? いや、マッチングアプリで女漁りするやつだぞ? ろくでもないだろ!
薫の中で俺はあの男以下なのかよ。
やっぱだめだ。あいつに薫は絶対に渡さない!



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