友達以上恋人未満~これを愛というならside story~
微睡みの中で梓の冷たい体温を感じて。

冷たいな、相変わらず。

ゆっくりと瞼を開けると、鼻先がぶつかる距離で、おはよ。

あぁ…おはよ、と返して額にキスをする。

まだ少しだけ、梓を腕に抱いていたくて強く抱き締めようとすると、


「送ってって、仕事行かなきゃ……」


そう言うよな、梓なら。

だから、あと10分だけ。

ちゃんとわかってるから。


梓の唇に、唇を重ねて。

何度も離しては重ねて、梓の唇を味わった。


梓を送ってから、家に帰ってすぐにキッチンに立っていた。


賞味期限間近の牛乳がある、梓の好きなフレンチトーストだな。


梓を好きだと気付いてから、勝手に身体が動いている。

そんな自分に躊躇いながらも、考える隙すらなく動く身体はどうしようもない。


電車に乗れば間に合わず、車で出勤すると従業員入り口で梓に背中を叩かれた。

イテッと、普通に叩けないのか。

俺の照れ隠しだった。

数時間前まで触れていた冷たい体温を感じられたことの。

フレンチトーストを渡すと、ありがとう、と笑顔になる。

この笑顔が見れたから、今日も一日頑張れる。


その日、帰るとライブのチケットが届いていた。

電話をかけたが、梓は出なくて。

すぐに、かけ直しに対応出来たのは握り締めていたから。

その日に、素直に気持ちをぶつけてみるか………

このままでは、本当にズルズルと中途半端な関係のままだ。

今さらだけどな。

怖いとか……もう考えるのはやめだ。

梓となら、もし振られたとしても同僚として側に居れる。

それだけで充分だ。


この時は明日、好きだと伝えるとは思ってもいなかった。
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