友達以上恋人未満~これを愛というならside story~
「梓!おいっ!梓!?」


更衣室前で、今日も梓を見つけて声を掛けるけれど何回呼んでも……気付かない。

肩を叩くと漸く、真っ青な顔でお腹を擦りながら振り返って、

おはよう、蓮。


これは毎月やって来る梓の月のものか。

どうやら梓は、この日の痛みが酷いらしく、ボーッとしている。

だけど、大丈夫か?と訊いた所で、大丈夫、と答えるのが梓だ。


「息抜きしたくなったら、厨房に来いよ」


「……うん、行く!」


頭を撫でて、頑張り過ぎんなよ、と言うと。

ありがとう、蓮も頑張ってね。

俺を見上げて笑顔をくれる。


ーーーーー。

レストランの営業時間が終わって、賄いを食べ終えて、片付けを済ませれば。

繁忙期以外は基本的に、広い厨房には俺一人になる。

狭い方の厨房で、社員の連中は割り振られた仕事をしている。

ときどき、チェックして欲しいときや聞きたいことがある時に顔を出すくらいだ。

レストランのメニューを考えたり、
婚礼のメニューを考えたり、
仕入れに行く時に必要な食材をリストアップしたり、
足りなくなってきている物をチェックしたり、やるべき仕事は山積みなんだが。



「蓮………カフェオレ飲みたい」


厨房のドアを開けてフラフラしながら、そう言って入って来る梓には、仕事の手を止めて甘やかしてしまう。


仕方ねぇな、と言いながらも、
すっかり身に付いた梓の好きな、ミルクたっぷりのカフェオレを作っている。


梓は、お腹痛いよ、と俺が座っていた丸椅子に座って、作業台に頭を預けている。

この日の梓はいつもこうだな。



「温かいうちに飲めよ」


勝手に俺が梓専用にしたマグカップのカフェオレを飲んでいる梓に、


「月のものか?」


うん、と頷いた梓の腰を擦ってやる。


男の俺にはわからない痛み、これくらいしかしてやれねぇけど。


「少しは和らぐか?」


「かなり和らぐよ。蓮の手が温かいから」


「そうか?梓が冷た過ぎるだけだろ」


「……冷え性だもん……蓮が温めてくれるからいいの……」


「そうか。幾らでも温めてやるよ」


こういう時の梓は素直に可愛いことを言うんだが……普段は可愛げがないんだよな。

それも梓だから嫌いじゃないけれど。


数時間してまたやって来て。

鈴木に集中を切らされた、と。

きゃぴきゃぴした今時の女な鈴木らしいな、と笑ってしまうと………

背中を思いっきり叩かれる。

イテッと睨みながらも、戯れてる感じが心地好いんだよな。

そんな戯れの時間さえも、俺が振った話で仕事モードに切り替わる。

俺らは、仕事人間だな。
< 2 / 12 >

この作品をシェア

pagetop