友達以上恋人未満~これを愛というならside story~
「倉本が好きな温かい飲み物作ってやってくれないか?」


厨房にやって来た陽介が、帰ろうとしていた俺に、そう頼んできた。

だけど、急になんだよ?


「まだ、一人で資料作ってるんだよ」


もう8時を回ってるのにか……梓らしいな。

無意識に笑っていたらしい俺に、蓮は倉本をどう想ってるんだ?

カフェオレを作ろうとしていた手が止まった。


「……どうって言われてもな……よくわからねぇ……ただ梓が元気がなかったら元気になってくれて……笑顔が見れたらそれでいい」


「本当にそれだけか?今だって、倉本のことを考えただけで……優しい顔してたぞ、ニヤニヤしやがって」


「……うるせぇな……居心地がいいってだけだ……本当によくわからねぇ……」


カフェオレを作り始めながら、煙草に火を点けると、一本くれ。

あぁ、と頷くと、陽介は作業台の煙草を吸いながら、

利香が家で吸うとうるさくてな、と。

ん?利香?


「陽介は……南と同棲してんのか?」


「あぁ、言ってなかったな」


そうか、とだけ答えて。

持ってやってくれ、と陽介の前にマグカップを差し出す。


「お前が持っていってやれよ?」


「いや……梓を見たら声をかけてしまいそうだ。集中を切らしたくない」


「……そうか。でも、早く手に入れとけよ。倉本は社内のマドンナだぞ」


「……うるせっ!冷めないうちに持ってけ!」


吸い終えた煙草を排水口に入れた陽介を、早く行け。


梓が社内のマドンナか。

そういえば、厨房の連中もたまに梓のことを噂してるな。

可愛いとか、スタイルいいとか、仕事が出来るとか。


もしも、梓が誰かのもんになったとしたら……寂しいな。

もう甘えてきてくれないだろうし、甘やかせない。

かと言って……聞けねぇ。

どう思ってるかなんて。

訊いたら……今のまんま居られねぇかもしれない。

怖いんだよ、もう。

かけがえのない大切な存在が居なくなることが。
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