悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
「わたしの言葉はあの学園ではちっとも届かなかったし。もともとヴァイオレンツ様はわたしのことを嫌っていたし。わたし、身に覚えのない罪で白亜の塔へ行くことも嫌だったので必死で考えたんです。それで、思いついたのが死んだふりをしてこっそり国を出て、一人で生きて行こうって。これならだれにも迷惑をかけないかなって」

 もとより家族の情なんてほぼない家だったし。
 わたしがいなくなってもあの家にはまだ弟がいるから、後継ぎ問題も問題なし。

 むしろ、婚約破棄された娘が死んでくれて父は内心ほっとしているかもしれない。
 それくらい互いに関心の無い家だった。あるのはベルヘウム家に生まれた誇りだけ。それも選民思想にまみれていたものだったけれど。

「今の話からすると、あの毒はあなた自身で飲んだってことなのね」
「なるほど。きみの決意はわかった」
「毒ではなく仮死状態になる薬です。たしかに、効くかどうかわからないって触れ込みだったから賭けだったけど。死ぬまで魔力を吸いつくされるとかいう未来よりかはましですから」

 わたしは嘆息して、ティーカップの紅茶に口をつけた。

「きみはなかなか頼もしい娘なんだね」
「でも、危険な賭けよ。今後はそういう無茶はしてはだめ。あなたが亡くなったら悲しむ人だっているもの」

「それは、あまり想像がつかないですね」
 なにしろシュタインハルツでは悪役令嬢だったわけで。リーゼロッテに人望があるとは思えないし。

「あなたの実家に様子を見に行ってもらったのだけれどね」
「え、誰に?」

「風たちに、よ。お屋敷の使用人たちは複雑そうだったわ。ちゃんとあなたの死を悼んでくれているもの。って、あなたまだ生きているけれど。それに、次にあなたの命に危機が迫ったらわたくしたちが心配をするわ」
「そ、それは……、心配をかけた人たちには悪いと思います。はい」

 そっか。わたしのこと気にかけてくれていた人もいたんだ。それは悪いことをした。
 リーゼロッテ・ベルヘウムは一応元気でやっています。心配かけてすみません。
 わたしは心の中であやまった。

「少し長いお話になってしまったわね。あなたもう一度休んだ方がいいわ。部屋を整えてあるの。案内するわね」

 レィファルメアが立ち上がる。

「え、でも長居するのは悪いですし、わたしも早く新しい生活を始めたいのでそろそろお暇します」
 わたしは慌てた。
 当初の予定では国境を越えている頃だし。いつまでの黄金竜の住まいにいるわけにもいかない。
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