悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 隅を溶かしたような真っ黒な風景の中、風が木の葉を揺らす音が聞こえる。遠くではフクロウらしき生き物がホゥゥホゥゥと鳴いている。

 まごうことなき夜の森。

「そうだね。竜は人間のように姓を持たない。私たちはこのあたりの者たちに谷間の黄金竜夫妻と呼ばれているよ。この辺りはすでに人間たちが言うところのドランブルーグ山岳地域・不可侵山脈の内側だよ。かぎりなく人里には近いけれど」

 ミゼルカイデンがさらっと言う。人里は近いらしいが、明かりなんてまったく見つけられない。

 わたしはがっくりと肩を落とした。

 とりあえず、人の決めた法律の届かない場所に来てしまったことには変わりなくて、しかも夜で。とりあえずもう一晩、黄金竜の一家のお世話になることにした。

◇◆◇

 悪役令嬢バッドエンドから逃げるために死んだふりをしたら紆余曲折あって黄金竜に拾われました。←今ここです。

 昨日は変な時間に三日ぶりに起きたわたしだけれど、体力的にはまだ心許なかったらしい。
 竜の夫妻が用意してくれた人間用の客室(ていうか、どうして竜の棲み処に人用の部屋があるんだろうね)で、わたしはその後こてんと眠りについた。

 窓のない部屋のため夜だとか朝だとかが分からないのが難点だけれど、次に起きたときは正真正銘朝だった。それが今朝のこと。

 日の光バンザイ。わたしは、彼らが用意してくれた朝食をぺろっと平らげて外に出た。

「ねーねー。一緒に遊ぼうよ」
「今日は空の散歩に行く?」

 わたしの両隣には小さな子供が二人。金色の髪の毛に金色の瞳をした愛らしい男女の双子。けれどもそれは仮の姿。

「そんな物騒なお散歩には行かない。ついでにわたしは今日これから旅立つの」

 わたしはぴしゃりと言った。朝から子供たち、ファーナとフェイルは相変わらずで、ずっとわたしに付きまとっている。

 二人とも長い名前なので愛称で呼ぶことにした。
 実は夫妻も、レイアとミゼルと呼んでくれていいよ、なんて親切に言ってくれたのだけれど、その微笑みが胡散臭い。子供たちの体のいい遊び相手にしようって魂胆が丸見えで。

「ぶーぶー。つまらなぁぁい」
「そうだよ。一緒に遊ぼうよぉ。せっかく拾ってきたのに」

 いや、わたしそのへんの犬猫と違うから。拾ってきたって失礼ね。こっちにだって人権ってものがあるんですけど。

「あんたたちね……」
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