最悪な恋の落ち方
「ありがとう、協力してくれて」

そう言った明日菜の顔には、優しい笑みが浮かんでいた。初めて見た笑顔に草介の顔が赤く染まっていく。

「心停止の場合、心肺蘇生などを行わなければ助かる確率はどんどん下がっていく。四分経過しただけで助かる確率は五十%まで下がってしまうんだ。あの時、もしあんたが声をかけてくれなかったら、あたしはあの人の異変に気付かなかったと思う」

救うことができて、本当によかった……。そう言う明日菜の微笑みは、例えるならば砂漠の中にあるオアシスのような美しさだろう。高鳴る胸と火照る体に草介は自覚する。最悪な出会い方をした彼女に、今、心を奪われたのだと。

「それじゃあ、あたしはこれで。仕事があるからね」

草介に背を向け、明日菜は何事もなかったかのように歩いていく。その手を掴んで引き止められたらどれだけいいだろうか。

草介は拳を握り締めながら、明日菜の後ろ姿を見送っていた。
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