君と私で、恋になるまで
それから少しした頃、一樹は本当に△社のクライアントを連れてうちのブースにやって来た。
感謝を瞳だけでなんとか伝えると、笑って頷く一樹の隣の人物に挨拶をする。
「はじめまして。弊社にご興味を持って頂いてありがとうございます。〇〇の営業部の枡川と申します。」
「……はじめまして。△社です。」
そう淡白な声で告げた男性は、私の名刺を受け取ってはくれたけど名乗ろうとはしなかった。これはなかなか手厳しいなと思いつつ、お掛けください、と声をかける。
「…△社さんでは、今オフィス移転を考えられてるんです。」
「ぜひ何かお手伝いできることがあればと思います。
以前、御社に営業でご挨拶に行かせていただいたこともあるんです。」
一樹がパスを出してくれて、なんとか始まった会話に笑顔で続けようとした時だった。
「____女性の営業さんしか、居ないですか?」
「……え?」
「出来れば、男性の方に色々お話聞きたいですかね。」
突然の言葉は、冷たい水がとても鋭い速さで容赦なく打ち付けてくるようだった。
男性の隣に座る一樹も、顔が硬直している。
…何も言えないのは当然だ。
だって彼にとっても、クライアントなんだから。
思ったより冷静に現状を見られているのは、先程の言葉に頭が冷えたせいなのかな。
「……今は、ブースには対応できるのが私しか居ません。」
生憎、先輩はみんな別のお客様に対応しているし、古淵はチラシ班としてもう出てしまった。
「そうなんですか。なんかすいません、でも昔から女性の営業さんってどうしても、やり辛い所があって。」
「女性、だからですか…」
「すぐにハラスメントとか主張する人、多いでしょう。
今回はきっと依頼するなら営業さんとは密に連絡取らないとですしね。こちらから無理な要求することも増えるし、面倒な事になる前に事前に回避できるならしたいなと。」
ごく平然と語られたそれは、簡単に私から言葉を奪う。