君と私で、恋になるまで
だだっ広い会場の奥に設置されているトイレで着替えを終えて、一応Tシャツにベタついたシミを濡らしてみる。
蛍光イエローのそれにへばりついた葡萄色は、甘い匂いを届けてくるけど、全く馴染み合わずに奇妙な模様になっていた。
「洗濯したら、取れるのかな。」
とりあえず今日は、もうこれは着られそうに無い。
「すまん古淵…」
デザイナーにそう呟いて、Tシャツの濡らした部分をきゅ、と絞りながら薄く笑おうとしたけど。
"____女性の営業さんしか、居ないですか?"
うまく、いかない。
この感情が悲しさなのか悔しさなのか、いまいち分からない。
だけど、さっきの私はスタートラインにも立たせてもらえなかった。弾かれる理由が、自分なようで自分じゃ無い。
ポロっと1粒、目から溢れた水滴は手洗い場に吸い込まれていった。
だけど、それ以上は流すもんかと唇を噛んで堪える。
イベントはまだまだ続く。
受けた言葉はズシリと心にくるけど、引きずってるわけにはいかない。
だって、今日はあの男も来てくれてるんだから。
"忙しい中、こうして手伝ってくれる瀬尾に恥ずかしく無い仕事をしたいし、そういう姿を見せたい。"
それは、紛れもない私の本心だ。