君と私で、恋になるまで
トイレを出て、申し訳ないけど亜子が買ってくれたジュースはほぼ台無しにしてしまったので先に自販機に行こうと会場の出口の方へ向かう。
本当に、ごった返すほどの人、人、人。
沢山のブースが密集している中で、それらを掻き分けるのさえ大変だと、なんとか歩みを進めようとしていた時だった。
「_______枡川、」
騒がしい中、すぐ近くで聞こえた自分の名前と共に、ぐい、と横から腕を掴まれて私の足は容易く止められた。
「、え、」
振り返ってその主を確認しようとしたけど、蛍光イエローに身を包んだ彼は、私の腕を掴んだままずんずんと人混みをすり抜けていく。
その背中は気怠くて、ちょっと猫背気味で、だけど1番安心してしまう。
イベント前、パイプ椅子を代わりに取ってくると言って私の動きを止めた奴は、すぐに腕をパッと離した。
だけど今は、ぐ、と強い力が込められて離されない繋がりに、やけに目頭が熱くなる。
そしてそのまま出口を抜ければ、先程までの賑々しい雰囲気とは打って変わった人気の無いロビーの一角に連れられた。
「せ、瀬尾、どうしたの。」
突然のことに鼓動が忙しくなる自分を抑えながら、なんとかそう聞くと向き合った男は私を真っ直ぐ見つめていた。
掴まれた腕は、まだ離されないままだ。
「……泣いてるかと思った、」
「…え?」
あまり聞いたことの無い、切ない声色で告げられた言葉に目を見張る。
「……さっき、明野さんがまたブースまで来てくれて。」
明野、というのは一樹の名字だ。
驚く私を置いて、瀬尾は言葉を続ける。
「"耐えて、ちゃんと最後まで丁寧に説明して下さってありがとうございました。フォローできずごめんなさい"だって。」
ふ、と笑う目の前の男は、さっきの出来事を全て知ってるのだろうか。