君と私で、恋になるまで
ちょっと、待って。
「瀬尾…、?」
恐る恐る呟いた名前は、押しつけられた胸で受け止められる。
その瞬間に力のこもる回された腕によって、私は奴に抱きしめられていると漸く分かった。
背の高い奴が少し腰を折るように私をおさめていて、息遣いさえ簡単に耳元に伝わる。
だけど全然、状況の理解はできても、気持ちが追いつかない。
なんで、急に、どういうこと。
そう思うのに、このまま止まってしまうのではと思うくらいに急ぐ心拍が邪魔をして何も言葉が浮かばない。
こんなの、絶対瀬尾に伝わってしまう。
"触れたくなったり撫で回したりしたくならないわけ?"
その焦りの中、ふと亜子との会話を思い出す。
___そんなの、触れたいに決まってる。
広い背中に、もう十分すぎるほど混乱しているくせに湧き出たハレンチOLの気持ちのまま、私はおずおずと手を回そうとした。
すぐ傍の奴が、驚いて息を飲むような気配に気付いて一瞬ためらったのに、また腕に力を込めてくるからまるでそれが「良いよ」って言ってるみたいで。
最後はもう、やけになって私もぎゅ、と奴を抱きしめた。
言葉も何も無い静寂の中、私は初めてこの気怠い男の心地よい体温を直接、知ってしまった。