君と私で、恋になるまで
クライアントの前で涙を流すわけにいかないと必死に耐えていると、松奈さんが私の名前を呼んだ。
それは今日1番、穏やかな声色に思えた。
「……僕は、考え方が古いです。
自分が営業をやっていた頃、女性の営業社員がドロップアウトしたところや、取引先でも社内でも泣く姿を何度も見てきました。
男女差なんてこの時代に何をって、言われるかもしれないけれど、やっぱり営業という仕事は色濃くまだその部分が残っていると思います。」
「……は、い。」
自然と、座って太腿あたりで重ねて置いていた手に力が篭る。
やはり、受け入れてはもらえないかな。
私の気持ちは全て、余すところなく伝え切ってしまった。
俯いて口を噤んで、私と彼を隔てるデスクを見つめる。
「……枡川さんのように、そんな必死な顔で泣くのを堪える方も、変な格好で寸法測られる方も、今まで知りません。」
「え。そ、そうですか……」
これは、どう反応したら良いところなのだろう。
突然の言葉に意表を突かれて、ぱちぱちと目を瞬いていると、松奈さんは、ですから、と接続の言葉で繋ぐ。
「……きちんと貴方を見てみようかと思います。
それで、やっぱりダメだと思った時は、容赦無く担当の変更をお願いすることにします。」
強面の顔はそのままに、凛とした声で揺らぐことなく伝えられた言葉には、意志があった。
「…容赦無く、ですか…」
「ええ。容赦無く、です。」
繰り返されたそれに、少しだけ松奈さんの表情が緩んだ気がして。
「……わかりました。どうぞよろしくお願いします。
あの、家具のデザインに拘られたいというのを少しお伺いしていたのですが、気になるものはありますか!?
カラバリ含めてすぐにデータで詳細をお出しできます!」