君と私で、恋になるまで


◻︎


"…以前から、定期的にリーフレットの発行をしていこうという話はあったようです。

初回で枡川さん達を取り上げたいという話は、俺も直前まで知りませんでしたが。"


「……そうだったんですか。」



____"…出演料は、後払いですかね。"

"うちへのお礼と相殺かもしれません。"

"保城、思ったより厚かましいよね。"___



あの日の香月さんと保城さんの会話の意味が、やっと分かった。


「相殺どころか。
こちらが嬉しい気持ちばかり、沢山いただいてしまいました…、」

△社を後にして、私は香月さんへ電話をかけた。そしてすぐに出てくださった彼に、先程の出来事を打ち明けた。

私の言葉を聞いて、スマホ越しの楽しそうな笑い声が優しく鼓膜を擽る。



「…保城さんに、是非奢らせていただきますと伝えてください。」

"あ、保城ならすぐそこにいますよ、代わり…たがっては無いですね、照れてるみたいです。


あ、回らない寿司でよろしく、だそうです。"


「あれ……要望が跳ね上がってますね…」

私はいつもの居酒屋へお連れしようと思っていたのだけれど。

そう声を漏らせば、やはり優しい香月さんの笑い声が届いた。



"枡川さん、俺はとても珍しいことだと思います。

こんな風に、一緒に仕事をする会社さんを紹介したいと自然に思える関係を築けることは。"



いつだって神様のような香月さんが、お告げしてくださるみたいに温かく語る言葉に、もう、涙は我慢しなかった。



「…私もそう思います。

今日、ご挨拶に行った企業さんで、今の私が大切に取り組んでいる案件のお話をすることができるとは、思いませんでした…。」


歩道の脇で足を止めて、スマホを握るのとは逆の手で瞳に浮かぶ涙を拭った。

なんとか悟られないように明るい声を出すことに努めたけれど、きっと香月さんはそんなこともお見通しなんだろうと思う。




"まあ、央の方から他社へのアプローチにリーフレットを使わせて欲しいってわざわざ出向いて依頼されたのはみんな驚いてましたけどね。

保城が、そろそろ完成する予定ではあったけど急に納期決まったって若干文句言ってました。"


___"俺も行くから。運営委員会に呼ばれてる。"


あの気怠い男の嘘に、私は全然気がついていなかった。

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