君と私で、恋になるまで
香月さんの言葉に、謎の静寂の時間ができてしまった。賑わう店内で異質な沈黙だ。
「……皇先輩、お酒足りて無いんじゃない。」
「あ、そ、そうだね…!香月さん次何にしますか…!」
隣の瀬尾の指摘に、焦りを隠せないままにそう提案すれば、
「さっき乾杯したとこでしょう、ビール満タンです。」
「「……」」
優しい神様は、優しい声のままに容赦なく私たちの言葉を跳ね除けた。
「で?いつから?」
「なんなの、こういうこと聞くために呼び出したわけ?」
「そうだよ、だってみんな知りたいじゃん。」
「みんなって誰だよ。」
ハア、と大きめの溜息を吐き出してビールを一口飲む隣の男の反応は、ちょっと珍しい。
一応、会社で会う時は瀬尾は香月さんに敬語を使っているから、こんな風に崩れているのも新鮮だ。
「俺、もうコンペの時からずっと見守ってきたんだよ?
このとんでもないヘタレの2人、いつくっついてくれるのかなって待ってたわけ。」
感慨深そうに目頭を抑えてそう言う香月さんに、クライアント様にまでヘタレだと思われていたのかと知って、恥が順調に顔を赤く染めていく。
「……だから、凄い感動してる今。」
「……香月さん…」
「枡川さん良かったですね。」
「…か、香月さん…ありがとうございます…」
「え、なんでちょっと枡川は絆されてんの。」
「あ、ごめん。」
香月さんの優しい言葉は、心をするすると解いてしまうから危険だ。
"…2人は、いつからお互いが好きだったの?"
先程の質問が、再び脳内を過ぎる。
香月さん。
ちょっとそれは、この男に伝えたらドン引きされてしまうような気がするくらい、ずっと前からなんです。