君と私で、恋になるまで
私の"恋の始まり"なんて。
きっと、誰も知らない。
隣のこの気怠い男だって、知らない。
右隣に座る瀬尾を意識する気持ちが高まれば、何だか急激に身体の右半分の温度だけがぼ、っと上がった。
狭い店内で、肩が触れてしまいそうなその距離にドキドキしながら、先程乾杯を交わしたばかりのビールで喉を潤す。
なんだかやけにクラクラするのはお酒のせいだと思うことにして。
どうしよう、正直に告白するのはあまりに難易度が高い、と言い淀んでいると、
「…そんなの、覚えてない。」
いつもの気怠い声はそう告げて、おつまみを注文するために店員さんを呼ぶ。
「ぜっったい嘘じゃん。お前が枡川さん関連のこと忘れるわけ「皇先輩、まじで面倒くさい。」
昔からきっと仲良しの2人がぎゃあぎゃあと、賑わう店内に負けないようなやりとりを交わす中で、もう香月さんのさっきの質問はどこかへ飛んでいってしまった。
隣で私は肩透かしを喰らいながら、再びビールを一口飲む。
積極的に、あの研修中の夜からずっと好きだったなんて、伝えたかった訳では無い。
それに。
"…そんなの、覚えてない。"
この気怠い男の気持ちの始まりを、
すごくすごく知りたかった訳でも、無いけど。
そうは思いつつ、少しだけ寂しさが生まれている気がした心を見て見ぬふりするように、運ばれてきた塩辛を沢山食べた。
「…え、この人初っ端からめっちゃ食べるんだけど。」
「………」
「枡川?」
「…瀬尾にはやらん。」
「なんでだよ。」
「(やばい、この2人面白すぎる…)」