君と私で、恋になるまで

◻︎


「あれ、もうこんな時間か。」

それから暫く色んな話をして、香月さんがそう告げた時、腕時計は21時半を指し示していた。


「本当だ、あっという間ですね。」


「うーーーんなんか俺は、ちょっと満足し切ってないですね。もっと央の恥ずかしい部分掘り起こしたかったんですけど、今日まだ水曜日だからなあ。」


「とうとう本音隠せて無いんだけど。
悪趣味過ぎて引くわ。」


げんなりしたように、ロートーンでそう言う瀬尾は大きな溜息を漏らす。


「馬鹿だなあお前。
そういう部分が枡川さんにとっては嬉しいこともあるのにさあ。」


ね?なんて笑って私を優しく促す香月さんは、なんだか色々とお見通しな気がする。

私は、曖昧に笑うことしかできない。

この気怠い男が何を考えてるか、付き合う前から翻弄されてきた私には、今だって分からないことが沢山ある。



「いつも気怠い感じばっかりのくせして、ゼミでも結局優秀だったし。お前は本当可愛くない。」

「知らねーわ。」


お会計用の伝票を待ちながら2人の会話をただ聞いていると、テーブルに置かれていた香月さんのスマホがバイブで震えた。
彼は、すぐに慣れた手つきでそれを止める。


「…あの、香月さん。今日お会いしてから凄くよく鳴っていらっしゃいますが…大丈夫ですか?」


「あー…すみません、気を遣わせて。

央と飲むって言ったら、同じゼミだった奴が凄い電話かけてきてるんですよね。」


「なんか絶対面倒そうだから、出ないで。」

「…私に気を遣わないでくださいね。」


「ちひろが気にすることじゃ無いから。皇先輩まじで出んなよ。」


やっぱりいつもより砕けた口調で目を細めて忠告した瀬尾は、「ごめん課長からの電話折り返してくる。」と、いつの間にかそちらでも鳴っていたらしい電話を手にして席を立った。




「"ちひろ"って、呼ばれてるんですね。」

「、」

やっとそう呼ばれるのに慣れてきたところで、今しがたそう呼ばれたことも馴染みすぎて気付いてなかった。


「す、すみません…」

「なんで謝るんですか。」


クスクスと楽しそうに笑う香月さんに、私も熱が溜まった顔をそのままに困ったように笑うと、やはり机の上のスマホが着信を知らせている。






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