君と私で、恋になるまで
いつものロートーンでのらりくらりとそう告げる男。
普通の人は、そんなアンニュイな雰囲気を持ち合わせたりはしない。
"…そんなの、覚えてない。"
さっきの香月さんの質問への瀬尾の返答まで思い出してしまって、やっぱり心のもやつきが消えない。
「………瀬尾は、忘れっぽいんだね。」
「ちひろ。お前今日ちょっと怒ってるだろ。」
そう呟いて、少し歩くスピードを早めようとした私の腕をすぐに掴んで、それを阻む男は気怠いままに指摘する。
「な、なんで…?」
「だって、塩辛全部1人で食べるし。」
「……」
私が怒ってるかどうかのこの男の中での判断基準がおっさん過ぎて、もはや悲しくなってきた。
このモヤつきは、香月さんにも悟られていただろうか、それは申し訳がなさ過ぎる。
そう思えば顔色が深刻になった私を読み取ったかのように、
「皇先輩は、気付いてないと思うけど。」
そう告げる瀬尾に、少し肩を撫で下ろす。
「でも、俺は気付く。」
「……なんでも無いよ。」
「ふうん?」
この男は、いつだって無理に私の言葉を促さない。
まるでなんだってお見通しみたいな余裕の雰囲気が、今は私の胸をチリチリと焦がす。
未だ離されない腕を自分の方に寄せて、距離を詰めようとする男を制するように、
「ほ、ほんとに何でも無いから…!
あと私、金曜は亜子と朝までカラオケの予定だったからちょっと厳しいかもしれない。」
焦った早口でそう告げて、心の中で自分に「なんでそんな馬鹿なの」と、盛大に突っ込む。
亜子からも「そんなこと約束してないけど?」と冷めた顔で言われる未来が想像できる。
視線を合わせられないままの私をじ、と暫く見ていた瀬尾が、
「分かった、じゃあ俺も久々に二次会以降も参加する。」
と、いつものロートーンで並べた言葉。
心から思えてもないのに「楽しんでね。」なんて言って、私、本当に馬鹿だ。