君と私で、恋になるまで
「…え、なんで、」
「じゃあちひろ、また来週ね。」
「…え!?」
ちょっと待って、そう言おうとしたときには亜子は軽快に歩みを進め始めていて、全く振り返ってくれなかった。
人混みに亜子が消えていった方向を暫く見つめていたが、私ははっと我に返って男に視線を向ける。
「…瀬尾。」
「何。」
「仕事は…?」
「なんとか片付いた。先方との擦り合わせを怠った営業の古淵は絞めて来た。」
古淵は、私とは別の営業部隊の同期だ。
お悔やみを申し上げるしかない。
「そ、そっか、お疲れ様。」
「うん」
そして、何故か沈黙。
急に現れた瀬尾に私の頭は思ったより事態を把握し切れていないけれど返答の言葉が短い瀬尾が、少し怒っているのは分かる。
「瀬尾、なんか抜け駆けみたいになってごめんね、映画。」
余程、監督のファンだったのだろうなと、私は申し訳ない気持ちでそう謝罪した。
すると、瀬尾は何故か深い溜息をついて、その後、私と視線を絡ませる。
「……あのさ、今日楽しみだったのって俺だけ?」
「…え?」
予期せぬ質問に、私は思わず聞き返したが、男はじ、とこちらを見つめたまま何も言わない。