泣きたい訳じゃない。
駅で両親と別れて、私は一人、家に戻った。
母から、兄の家で食べ損ねたランチに誘われたけど、そんな気になれるはずもなく断った。

家に帰ると、ソファに座り込んだまま、時間だけが過ぎ、気が付くと周りがすっかり暗くなっていた。

電気すら付けていなかったんだ。

明日の朝には拓海から連絡があるはずだ。
私はどうするつもりだろう。
拓海とどう向き合えばいいのか、分からない。

拓海と彩華さんはどれぐらい付き合っていたんだろう。
いつまで付き合っていたんだろう。
拓海が日本に帰って来てから会ったんだろうか。

知っても仕方ないけど、知りたいことが溢れてくる。
それを聞くとしたら、拓海しかいない。

どんな答えなら私は安心できるのだろう。

今の二人の関係を疑っている訳ではない。私にだって、過去に付き合った人はいる。
拓海にだっていて当然だとは思う。

だけど、それが兄の義理の妹で、あんな風に取り乱されると、今の私にはそれを受け止めるだけの余裕はない。

拓海が近くにいてくれたなら、喧嘩をしたかもしれないけど、それでも会って、話をして、抱き締められたら終わる話かもしれないのに。

私は独りソファの上で、私の膝を自分で固く抱え込むしかできない。

こんなはずじゃなかったのに。
泣きたい訳じゃないのに。

眠れない夜を過ごすのは何度目だろう。
< 38 / 70 >

この作品をシェア

pagetop