泣きたい訳じゃない。
拓海の部屋は、海が見えるシンプルだけど、とても素敵な部屋だった。

「いい部屋だね。海が見えるなんて羨ましい。ここからだと、スタンレーパークも近くでしょ。」

「莉奈が喜びそうな部屋を選んだんだ。」

「うそっ!本当に?私が来るかどうかも分からなかったのに。」

「俺は、最初から莉奈を呼ぶつもりだったから。」

「ありがとう。明日の朝、ここから景色を見るのが楽しみ。」

「その前に、もっと楽しいことが待ってるだろ。」

「何?」

「俺。」

そう言うと、ソファーに座った私を後ろから抱き締めて、私の首元に唇を寄せたかと思うと、甘噛みする。

「駄目だよ。跡が残っちゃう。」

「莉奈がロスの話を楽しそうするのが悪い。」

「どうして?」

「俺も知らなかったけど、俺は嫉妬深い男なんだよ。」

「本当に止めて。」

「じゃあ、莉奈からキスして。」

私は、拓海の方に振り返ると、軽くキスをする。

まだ、私はこの部屋に来てから、飲み物すら口にしていない。今日は、拓海との夜をまったりとした空気の中で楽しみたいのに。

「そんなんじゃ足りない。」

拓海は私を身体ごと自分に向かせると、私の唇に吸いついた。

「吸血鬼みたい。」

「一週間ぶりの再会にそれはないだろ。」
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